厚木市で 相続手続 の支援をしている、税理士・相続手続相談士の小川正人です。
相続 の際に必要な戸籍集めや口座解約、各種名義変更をお手伝いさせていただいております。
相続 において、相続財産をただ均等に分配するだけでは、公平性があるとは言えません。なぜなら、一部の相続人のみが被相続人から高額の生前贈与を受けているケースもあるからです。
そのケースでは、たとえ遺産が均等に分配されようとも、最終的に受け取る財産には差が出てしまいます。
このようなケースで、相続人の間の公平を図るための制度として「特別受益」があります。
特別受益とは何か
特別受益とは民法903条で規定される法的な概念です。具体的には、複数の法定相続人の中で、特定の者だけが被相続人から得た利益を指します。
ここで言う利益とは、遺贈や生前贈与によって得たものです。
相続人は被相続人との関係性によって法定相続分や遺留分の差こそあれ、本来平等であるはずです。しかし、特定の相続人だけが、贈与等をされていた場合、その利益を除外して遺産を分割すると、不公平となります。心情的に遺産分割がまとまらず、トラブルになるかもしれません。
特別受益は、遺産相続における不公平感をなくすための制度です。
特別受益がある場合、相続時の財産額と合算した上で、各相続人の相続分を決めなければなりません。この仕組みは「特別受益の持ち戻し」と言います。
特別受益と遺言
遺産相続において遺言がある場合、原則的にその内容が重視されます。
もし、遺言内容に「遺産分割に特別受益の持ち戻しをしない」と書かれていれば、特別受益を考慮しない遺産分配がされます。(特別受益の持ち戻し免除の意思表示)
持ち戻しの免除は遺産分割に対してであり、遺留分に対しての免除は不可です。
何が特別受益に該当するのか
(1)遺贈
遺贈とは遺言によって財産を渡す行為です。
この遺贈によって渡された財産は全て特別受益の対象です。
(2)死因贈与
死因贈与は贈与側の死を起因として行われる贈与行為です。贈与と言いつつ、受贈者が取得する財産に課されるのは贈与税ではなく、相続税となります。
死因贈与の受贈者が相続人であれば特別受益に該当します。
(3)婚姻のための贈与
結婚のための生前贈与では一部が特別受益の対象となってしまいます。該当するのは結婚の際の持参金や支度金などです。
結婚式自体の費用(会場費等)は特別受益になりません。この理由としては、以前では結婚式費用を親が負担する風習があったからです。
ただし、一般的でない豪華な結婚式の費用であれば、資金の一部が特別受益とみなされる場合もあります。
(4)教育費用の贈与
学費においては、大学以上の学費が特別受益に当たる可能性があります。特別受益かどうかは、各家庭の収入や財産、他の家族の教育水準、社会環境によって判断されます。
極端な例ですが、他の兄弟が全て国立の文系大に通っているのに、一人だけ医学部に通っている、海外留学をさせてもらっているような場合、特別受益になるでしょう。
(5)不動産の贈与
土地・建物など居住用不動産の生前贈与、およびその購入資金の贈与は特別受益になります。
ただし、2019年の改正相続法では、婚姻期間が20年以上の配偶者間の居住用不動産の遺贈・贈与については、「被相続人が持ち戻し免除の意思表示をしたと推定する」とされ、原則的に持ち戻しはしなくて良いとされました。
この婚姻期間は途中で離婚し、また同じ人と再婚している場合、離婚前、離婚後の婚姻期間を通算できます。
(6)事業用資産の贈与
事業用資産の贈与は生計の資本としての贈与となり、原則的に特別受益になります。
事業用資産の贈与は、それが事業承継のために行われても特別受益に当たります。
(7)特定の相続人への贈与
相続税のよくある節税対策として年間110万円以下の金額を推定相続人に贈与することありますが、この贈与が特定の相続人のみにされていた場合は、特別受益に当たります。
特別受益の持ち戻し期間について
2019年の法改正によって、遺留分計算における特別受益の持ち戻しの期間は10年に設定されました。相続開始から10年以上前に贈与された財産に関しては、対象ではありません。
しかし、10年という期限は遺留分計算の場合です。遺産分割協議で相続分を算定する場合、特別受益の持ち戻しの対象となるお金に制限はありません。
特別受益の持ち戻しの計算方法
特別受益がある場合の相続分計算は以下のとおりです。
- 特別受益者の相続分
- 特別受益者でない相続人の相続分
(相続財産+特別受益額)×法定相続分−特別受益額=相続分
(相続財産+特別受益額)×法定相続分=相続分
流れにすると以下の通りです。
特別受益分を含んだみなし相続財産の総額を求める
↓
みなし相続財産を相続人で分割する
↓
特別受益者からは受け取った特別受益額を差し引いて相続分を求める
特別受益と相続税
特別受益に相続税は課税されません。つまり、相続税計算の際には特別受益分は除外して良いのです。
ただし、生前贈与加算には注意しましょう。生前贈与加算とは、死亡前の一定期間内に故人から贈与を受けていた場合、相続税課税価格に贈与額を加算するものです。
生前贈与加算は2023年度の税制改正で、加算数が段階的に3年から7年に延長されます。期間が延びるので、相続税計算上の相続財産が増えやすくなり、多くのケースで相続税の増税が見込まれます。
- 2026年開始の相続→最長3年間加算(加算対象となる贈与年は2023年以降)
2027年開始の相続→最長4年間加算(加算対象となる贈与年は2024年以降)
2028年開始の相続→最長5年間加算(加算対象となる贈与年は2024年以降)
2029年開始の相続→最長6年間加算(加算対象となる贈与年は2024年以降)
2030年開始の相続→最長7年間加算(加算対象となる贈与年は2024年以降)
2031年開始の相続→7年間加算(加算対象となる贈与年は2024年以降)
まとめ
特別受益は、遺産相続における不公平感をなくすための制度です。結婚持参金や不動産、事業資金等の贈与など、特定の方への贈与や遺贈は全て対象です。
後の相続分に影響するので、十分に注意しましょう。
なお、贈与税・相続税について対策をしたい場合は、相続専門の税理士を頼ることをお勧めします。
相続の手続きでお困りのことがございましたら、相続手続の専門家・相続手続相談士のいる厚木相続相談センターまでお気軽にご連絡ください。
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相続では条件を満たすことで相続税額を控除できる特例がいくつか設けられています。「小規模宅地等の特例」もそんな特例の一つです。
この特例は、故人が所有していた特定の土地について相続税の評価額を最大で80%も減額できる制度です。土地はもともと価値の高いものですから、その評価額を8割も下げられるとなると、かなりの節税になります。
この小規模宅地等の特例ですが、自宅がある土地で申請する場合、前提として故人が生前に住んでいる必要があります。しかしながら、高齢ともなると、自宅を離れて老人ホームへ入居するケースもあります。
その場合、もともと住んでいた宅地は特例の適用が可能なのでしょうか。本コラムで解説いたします。
小規模宅地等の特例とは
小規模宅地等の特例とは、相続において故人所有の土地が一定の要件を満たす場合、その相続税評価額が最大80%も減額できる制度です。
対象となる土地は、故人(被相続人)の自宅があった土地・事業利用していた土地・第三者に貸していた土地等になります。減額の幅や上限面積は、土地の利用状況によって変わります。
この制度ができたのは、遺族の生活を守るためです。もし、相続で故人の土地に相続税が100%課税されると、それを引き継ぐ相続人にとっては大きな負担となります。最悪のケースでは相続税を払うために、土地を売るなどして居住地を失い、引き継いだ事業がストップする可能性もあります。
このように相続人の生活に悪い影響を出さない処置として、小規模宅地等の特例が創設されました。この特例は何といっても、相続税の評価額を大幅に下げられる点が魅力です。
ただし、控除額が大きい反面、適用要件も細かく設定されています。制度の仕組みをきちんと理解した上で、要件をクリアしなければなりません。
なお、対象は土地のみです。建物は対象外なので注意しましょう。
老人ホームに入所していても適用可能
小規模宅地等の特例は特定居住用宅地として申請する場合、大前提として「故人もしくは生計を一にする親族がその土地に住んでいた」という実態がないといけません。
しかし、故人が自宅を離れて老人ホームに入居していた場合もあります。
老人ホームに入居すると、自宅が空き家になってしまいます。しかし、この場合でも、小規模宅地等の特例を使うことができます。ただし、一定要件を満たす必要があります。
まず、老人ホームに住居していた故人が以下の要件を満たしていること。
- 要介護認定もしくは要支援認定を受けていた
- 老人福祉法等に規定する老人ホーム等に入所していた
- 入所後に自宅を他人に貸したりしていない
老人ホームへ入居する場合、必ず要介護・要支援認定を受けていること。つまり、健康な状態なのに、老人ホームに入居していた場合、特例の適用は受けられません。
そして、入居する施設は老人福祉法や介護保険法に規定されるものでなければなりません。無許可営業の老人ホームに入所していたら、特例の適用外です。
また、入所後に、自宅を事業や賃貸として運用していないこと。これは特定居住用宅地として申請するための必須項目です。事業用や貸付用として利用すると、特定居住用宅地として税務署が認めてくれなくなるからです。
小規模宅地等の特例が使える4つのケース
ここでは特例が使える具体的なケースを紹介いたします。
- ①自宅に夫婦で住んでおり、高齢の夫が老人ホームに入所。妻はその後も引き続き自宅に住み続けた。
- 配偶者である妻が相続で住宅地を相続する場合、小規模宅地等の特例が適用可能
- 配偶者のため、申告期限まで自宅に住み続ける等の継続要件はありません
- ②自宅に父親と子供が同居後、父親は老人ホームへ。子供はそのまま相続まで自宅に住んだ。
- 同居人であった子供が自宅の土地を相続する場合、特例適用可能
- しかし、相続後も相続税の申告期限まで土地の所有と居住を続ける必要あり
- 期限内に自宅を売却してしまうと特例は適用不可になります
- ③夫婦二人が同居していたが、二人とも老人ホームへ入った。自宅は空き家に。
- 相続で配偶者がその空き家を相続する場合、特例が問題なく使えます
- 継続要件も不要になります
- ④父親だけが自宅に住んでいたが老人ホームへ入った。自宅は空き家となった。
- このケースでは別居している親族の「家なき子」が自宅を相続する場合については、小規模宅地等の特例が使えます
- 家なき子とは、相続日前3年以内に本人もしくはその配偶者が持っている家屋に住んだことのない相続人をいいます
- なお、この特例を使うためには故人に配偶者もしくは同居している相続人がいない場合です
- 配偶者がいないというのは、配偶者が既に亡くなっているか離婚などにより、戸籍上の配偶者がいない場合を指します
入所していた場合の添付書類
故人が老人ホームに入所していたケースで、特例適用を受けるためには、小規模宅地等の特例適用の添付書類に以下の書類を用意しなければなりません。
- 死亡日以後に作成された被相続人の戸籍の附票の写し
- 介護保険の被保険者証の写し、障害福祉サービス受給者証の写しなど、被相続人の要介護認定、要支援認定等の事実を証明する書類
- 老人ホームの入所契約書など、施設の名称、所在地等が記載された書類
同居の実態は誤魔化せない
小規模宅地等の特例では、取得者によっては生前の故人と同居していた実態が必要です。つまり、住民票が同じであっても、実際に同居していないと特例は使えないのです。
税務署には適当に言えば良いのではないか?と考えるかもしれませんが、同居していたかはどうかについては、税務署も徹底的に調べます。
同居の実態を偽っている場合は、高い確率でバレるでしょう。
同居の実態を偽り、不当に税金を安くする行為は脱税ですから、ケースによっては重い処罰が課せられます。注意しましょう。
まとめ
高齢の被相続人が自宅を離れて老人ホームへ入居するケースはとても多いです。
老人ホームに入居していた場合でも、小規模宅地等の特例を使うことができますが、一定要件を満たす必要があります。
今回4つのケースを挙げて説明しましたが、その他のケースについて詳しく聞きたい方は、弊所までご相談ください。
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相続ではさまざまなケースがありますが、引き継ぐ財産の中に土地がある例は多いです。自宅が建っていた土地が最も多いですが、賃貸アパート用の土地や、事業用に使っていた土地が含まれる場合もあります。
土地が相続財産の場合、気になるのが相続税です。場所にもよりますが、車や貴金属と比べると、土地は高額になる可能性が高いからです。
土地を相続する方に是非覚えておいて欲しい制度が「小規模宅地等の特例」です。この制度は、相続する土地の評価額を80%も抑えることができます。
なお、減額されるのは「相続税評価額のみ」なので、土地自体の資産価値には影響しません。
小規模宅地等の特例の概要
小規模宅地等の特例は、特定要件を満たすことで土地の相続税評価額が最大で80%減額される制度です。相続税評価額が下がれば、相続税負担も少なくなります。
土地はそれ自体が高価値のため、それを引き継ぐ相続人の負担も大きくなります。相続税負担が大きいと、税金を払うために住む土地や事業用地を売却しなければならない可能性も出てきます。
そのような状況を回避するためにも、小規模宅地等の特例という制度が創設されました。
特例なので、無条件で評価額を減額できるわけではありません。むしろ、節税効果の大きい特例なので、要件も非常に複雑になっています。その土地の利用状況、誰が引き継ぐのかなどで、細かく分かれていきます。
また、対象の土地は、特定居住用宅地等・特定事業用宅地等・貸付事業用宅地の三つで、減額できる金額や上限面積はそれぞれで異なります。
土地要件
(1)対象の土地
小規模宅地等の特例の対象となる土地は以下の三つとなります。
- 特定居住用宅地…住宅として使っていた土地
- 特定事業用宅地…事業で使っていた土地
- 貸付事業用宅地…賃貸として人に貸していた土地
相続で最も多いのは、特定居住用宅地です。
特定居住用宅地については、大前提として被相続人や被相続人と生計を共にしていた親族が住んでいたものだけが対象になります。別荘地など、一時的に利用していただけの土地は対象外です。
また、対象の土地は相続開始から相続税の申告期間(相続後10カ月)まで、継続して利用する必要があるので、その前に売却等をしてしまうと制度の適用ができないので注意しましょう。
(2)面積
面積は土地によって上限があります。
- 特定居住用宅地の上限面積…330㎡
- 特定事業用宅地の上限面積…400㎡
- 貸付事業用宅地の上限面積…200㎡
面積が上限を超えれば、上限面積分だけ評価額が減になります。
例えば、評価額が1億円で500㎡の居住用宅地なら、評価額は330㎡まで80%減額なので、1億円-1億円÷500㎡×330㎡×0.8=4720万円です。
国内の一軒家の平均面積は約130㎡程です。
広い豪邸に住んでいない限り、大抵の居住用宅地は上述の面積内におさまるでしょう。
(3)評価額の減額率
相続の際の評価額は以下の通りとなります。
- 特定居住用宅地の評価額…80%減
- 特定事業用宅地の評価額…80%減
- 貸付事業用宅地の評価額…50%減
貸付用が最も低いですが、賃貸物件の場合はそもそも相続時の評価計算方法自体に控除があるので、バランスが取れているとも言えます。
取得者の要件(特定居住用宅地の場合)
(1)配偶者
故人の配偶者が土地の取得者である場合、特定居住用宅地であれば、無条件で特例の適用となります。
配偶者の方であれば、故人と生前別居していても適用できます。相続したら申告期限前に売却しても構いません。
配偶者は相続ではかなり優遇されますが、それは小規模宅地等の特例の要件でも同じです。
(2)同居親族
故人と同居していた親族が取得者となる場合、相続税の申告期限まで引き続きその宅地を所有し、同じ家に住み続けることで適用要件となります。
この場合の同居は、生活の拠点を一緒にするという意味です。住民票が同一というだけでなく、実際に同居していた事実が必要です。なお、同居には期間の制限がありません。極端な例ですが、相続開始前の一週間前であっても同居していれば、特例は適用されます。
ただし、亡くなる前の居住期間はありませんが、相続開始後の10ヶ月間はそこに住み続けなければいけないという点には注意しましょう。
(3)その他の親族(家なき子特例)
同居の実態がない親族が土地取得者となる場合、以下の要件を満たさなければなりません。
- 被相続人に配偶者や他の同居相続人がいない
- 相続開始前3年以内に、その親族やその親族の配偶者、3親等内の親族等の家屋に住んだことがない
- 相続時にその親族が住んでいる家屋を過去に所有していないこと
- 申告期限まで引き続きその宅地等を所有していること
この特例は、3年以上借家暮らしをしている親族を対象にしていることから「家なき子特例」と呼ばれているものです。
同居している他の相続人がいないという要件から、配偶者のいない故人が、一人で自宅に住んでいたような場合が該当します。
こちらの場合でも、相続開始後の10ヶ月間は該当の家に住み続けなければなりません。
小規模宅地等の特例では申告が必須
相続財産の総額が相続税の基礎控除額「3,000万円 +( 600万円 × 法定相続人の数 )」以内であれば、相続税は生じないので申告は不要です。
しかし、小規模宅地等の特例を使う場合、相続税が発生しなくても申告が必要になります。
申告には必要な書類を用意して手続きをします。この手続きをしないと特例が使えません。手続きを怠ると、税務署から多額の追徴課税を言い渡される恐れがあります。
まとめ
小規模宅地等の特例は控除制度としては、かなり複雑です。土地要件や取得者要件の他にも、各ケースによって適用条件が異なってきます。
相続財産に土地が含まれている場合、まずは専門の税理士に相談してください。税理士のアドバイスで数百万円も税金が変わることがあります。
なお、節税対策は早い段階からしておく方が有利なので、将来、土地を相続する予定がある方もお早めにご相談ください。
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相続税の申告期限は、「申告者が相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内」と決められています。
こう聞くと「10ヶ月もあるし、余裕があるな」と多くの方が思うでしょう。しかし、実際には申告期限ギリギリになってしまうケースがほとんどです。中には、ご自身での申告が間に合わず、期限間際になって税理士に申告代行を依頼するケースも多々あります。
相続税の申告は単純なものではありません。
税額の計算にしても、相続財産の把握・法定相続人の確定・遺産分割の決定等々、様々なプロセスが必要になります。これらのプロセスはすぐに終わりません。また、相続における手続きは相続税申告だけではなく、他にも沢山あります。
よって、相続税の申告は全てがスムーズに行えたとしても、「半年以上はかかるもの」と考えておくべきです。
相続税の申告期限は思ったよりも早く来る
冒頭でも述べた通り、相続税の申告期限は、相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内です。納付の期限も同じです。
期限は「相続開始を知った日」からカウントされるので、相続人によっては相続開始日の10ヶ月後より後ろ倒しになる場合もあります。
ただし、相続税の申告は相続人が共同で申告書を提出します。よって、相続期限は相続開始日から10ヶ月以内と考えて、手続きを進める方が良いでしょう。申告期限は10ヶ月もありますが、期限は思ったより早くやってきます。何故なら、相続では必要な手続きがたくさんあるからです。
各手続きは一つ一つ時間がかかり、すぐに終わるものでもありません。よって、申告のための作業は早期に取り掛かる必要があります。
期限を過ぎてしまった場合は、追徴課税
もし、前述の期限を過ぎてしまった場合、本来の相続税に加えて無申告加算税・延滞税を納めなければなりません。
さらに財産の隠蔽や虚偽の申告等、悪質だと判断された場合は重加算税という重いペナルティが課せられます。(ただし、単純に申告期限を過ぎてしまったケースでは重加算税は課せられません。)
なお、相続した土地の相続税評価額を大幅に減額できる「小規模宅地等の特例」は期限内申告が前提となります。被相続人の配偶者控除制度も同様です。
このことからも、申告・納税は必ず期限内に済ませるべきなのです。
相続税申告に必要な作業とは
相続税の申告には様々なプロセスが必要になります。
(1)財産調査
申告には正しい税額計算が求められます。よって、被相続人の財産の全容を明らかにし、財産ごとに評価していかなければなりません。
財産調査は各ケースによってかかる労力が異なります。
例えば預貯金だと、「被相続人がどこの金融機関を利用していたかすぐにわかる」、「利用口座も少ない」のであれば、特定作業に手間はかかりませんが、海外の口座を利用している場合は大変です。
不動産でも、自宅だけなら簡単ですが、遠方地に別荘や倉庫を有している場合、不動産情報を手に入れるのに苦労します。
(2)相続人確定
相続人確定は、遺産分割と相続税申告に向けての重要な作業です。
遺産分割は、すべての相続人を確定しないとできません。遺産分割協議は最終的に相続人全員の同意を取らなければならないからです。参加者が欠けていると、その協議は無効となります。
また、相続人数は基礎控除を決める要素なので、早めに確定しておかなくてはなりません。基礎控除は相続税が生じるかどうかの指標の額だからです。(基礎控除は「3000万円+(600万円×法定相続人の数)」で計算します。)
なお、相続人は自己申告制ではなく、戸籍を使っての証明となります。戸籍は、被相続人が死亡してから原則として出生まですべて遡り、除籍謄本や改製原戸籍といった古いものまで取得します。
相続人がすべて判明したら、その方が生存中か、相続人であるかの証明のために相続人本人の「現在の戸籍」も必要になります。
(3)遺産分割
遺言書がなければ、相続財産は相続人同士での協議で配分を決めます。こちらも財産内容や相続人同士の関係性で、かかる時間が変わってきます。
なお、遺言があればこの遺産分割協議をしなくて良いので、かなりの時間短縮になります。
協議で分割割合が決まったら、遺産分割協議書を作成します。書類には、すべての法定相続人の自署と原則実印(不動産がある場合は必須)の押印が必要です。
(4)正確な税額計算をする
全ての財産の相続税額を計算します。
相続財産はそれぞれ評価方法が異なります。財産が金銭のみなら計算も簡単ですが、不動産や株式がある場合は、専門の税理士に依頼しないとスムーズに進みません。
なお、計算を間違えてしまうと、申告においてペナルティを被ることになります。不安な場合は、やはり税理士にお願いする方が良いでしょう。
まとめ
相続税の申告・納税までには多くのプロセスがあります。加えて、他にも行わなければならない手続きがあります。
準確定申告や相続税の申告、相続放棄や限定承認の選択には期限が設けられているため、時間をかけすぎてもいけません。確実に進めるためにも、早めに取り掛かるようにしましょう。
相続の手続きでお困りのことがございましたら、相続手続の専門家・相続手続相談士のいる厚木相続相談センターまでお気軽にご連絡ください。
行政書士、司法書士、弁護士、不動産鑑定士との強いネットワークを活かして、あなたの相続の悩みをサポートいたします。
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相続税の申告には正しい税額計算が不可欠です。とは言っても、相続税の計算は簡単ではありません。各財産に応じて評価方法が異なりますから、専門知識はもちろん、ある程度の経験がなければ、非常に難しい作業です。故に、一般の方が行うと申告額に誤りが生じる可能性は高くなります。
申告を一度した後に間違いに気づくケースも出てきます。この場合、申告の期限内であれば、再度申告書を出し直せば、ペナルティはありません。
ですが、期限がすでに切れてしまっている場合には、事情が変わります。
申告の出し直しは期限内であれば問題なし
相続税の申告期限は相続開始を知ってから10ヶ月以内となっています。
一度提出した申告書の内容が間違っていることに気がついた場合、それが上記の申告期限内であれば、問題ありません。申告書を修正して、もう一度提出すれば良いからです。
相続税法では、申告期限内に相続税の申告書を提出した方が、さらに同期限内にその申告にかかる課税価格、相続税額、もしくは贈与税額を修正した申告書を提出する場合、国税通則法第19条第1項の修正申告書とはされず、期限内申告書として取り扱われるとされています。
申告期限内に、申告書を再度提出する行為は「訂正申告」と呼ばれます。
要するに、期限内であれば後に出した申告書が正式な申告書として扱われます。よって、間違いに気づいた場合は焦らずに修正作業をしましょう。
なお、期限切れにはくれぐれも注意しなければなりません。
期限後の場合は、早急に提出すること
申告期限後に、正しい金額で訂正した申告書を提出する行為は「修正申告」と呼ばれます。こちらは期限後ということで先述の訂正申告とは事情が違います。
相続税の本来の申告と納付期限を破ることになるので、ペナルティとして「過少申告加算税」と「延滞税」が課されるからです。
延滞税は本来の納期限日から修正申告をした日(この日が修正した相続税の納期限となります)までの期間に、年14.6%(2カ月以内の場合には年7.3%)が本来の税金に加算されます。
過少申告加算税とは正しい税額よりも低い金額で申告をした場合に加算されます。過少申告加算税は修正申告をするタイミングで課税率が変わります。
- 税務署の調査を受けた後に修正申告書を提出する場合、追加納付すべき税額の10%(追加納付する税額が期限内申告をした税額または50万円のどちらか多い金額を超える部分に対しては15%)の過少申告加算税が加算
- 修正申告書の提出が、税務調査の通知以前かつ調査による更正を予知してされたものでないときは課されない
- 調査の事前通知の後の場合は、50万円までは5%、50万円を超える部分は10%の割合を乗じた金額の過少申告加算税がかかる
以前では、税務調査前までに修正申告を行えば、加算税の対象外となっていました。しかし、現在では調査通知が来るまでに行わなければ、税金を課せられてしまいます。
修正申告が必要なケースは他にもある
修正申告が必要となるのは、税額計算に間違いがあった場合以外にも必要です。
- 後から新たな遺産が見つかった
- 特例の適用の誤りがあった
新しい相続財産が後になって発見された場合や、特例の適用誤りがあった場合でも、相続税額が変動します。よって、修正申告が必要となります。
修正申告はできる限り早くする
税額が不足していたことがわかった場合、それが申告の期限後であれば税務署に修正申告書を提出します。修正申告書は税務調査で更正を受けるまでであれば、いつでも提出できます。
相続税の修正申告に特に期限は設けられていませんが、前述した通り、後になればなるほど延滞税が課せられていくので、早い段階で手続きを終える必要があります。
申告書や添付書類は国税庁のホームページからダウンロードできます。
提出は、管轄の税務署窓口に必要資料を直接持参するか、郵送でも大丈夫です。e-Taxでの電子申告でもできます。どの方法を選択しても、納税額は変わりませんので、早めに済ませておきましょう。
修正申告は税理士への依頼がお勧め
相続税の修正申告は、税理士に依頼する方が良いでしょう。税理士に依頼することで報酬は発生しますが、適切に申告してもらえるメリットがあります。
冒頭でも述べましたが、相続税は、複雑なプロセスの中でする作業なので、専門知識と経験がないとハードルの高い作業になります。
その点を考慮すると、税金のプロであり、豊富な経験を持つ税理士なら、正確かつ素早い税額計算が可能です。
前述したように延滞税は、遅れれば遅れるほど金額が増えていくものですから、計算に時間をかけなければ無駄な税金を払わなくて済みます。
また、大変な作業を税理士に任せれば、精神的な負担からも解放されます。
まとめ
相続税額の計算は複雑ですから、間違いも起こりやすいと言えます。
誤りに気づいて申告期限内に申告書を出し直すのであれば、問題はありません。期限を守ることに集中して、手続きを終えるようにしましょう。
ご自身で手続きをやり直すのも良いですが、確実性とスピードを求めるのであれば、相続税専門の税理士に手続きを代行してもらうことがお勧めです。
むしろ、最初から税理士に依頼してしまった方が、負担も少なくて済みます。依頼することで様々なメリットがありますから、是非検討してください。
相続の手続きでお困りのことがございましたら、相続手続の専門家・相続手続相談士のいる厚木相続相談センターまでお気軽にご連絡ください。
行政書士、司法書士、弁護士、不動産鑑定士との強いネットワークを活かして、あなたの相続の悩みをサポートいたします。
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厚木市で 相続手続 支援をしている、税理士・相続手続相談士の小川正人です。
相続 の際に必要な戸籍集めや口座解約、各種名義変更をお手伝いさせていただいております。
相続登記の義務化が先月の4月1日より始まりました。相続や遺贈で取得した不動産については「3年以内」に相続登記をする必要があります。これは、4月1日以前の相続も対象であり、正当な理由なくこれを怠った場合、10万円以下の過料が課されます。
よって、今まで手続きを放置してきた方は急いで手続きをしなければなりません。
ただし、長期間、登記を怠った代償で権利関係が複雑化しており、相続登記手続きがすぐには終わらないケースもあるでしょう。
そのような場合には、相続登記の義務化と併設された「相続人申告登記」を利用しましょう。相続人申告登記を行うと、相続登記申請義務を果たしたとされ、罰則対象からも一時的に外れるからです。
新制度 相続人申告登記について
相続人申告登記とは、「不動産の登記名義人について相続が開始したこと」と「自らがその相続人であること」を法務局に申し出るものです。
申請が完了すると、申し出た相続人の氏名と住所等が登記簿に記載されます。
相続人申告登記をすると、相続登記の申請義務は履行されたことになります。申請義務が履行された場合、相続登記義務の罰則対象からも外れます。
そのため、相続不動産の相続登記がすぐにできないような場合=期限の3年以内に手続きが完了しない場合には、この相続人申告登記を活用すべきです。
なお、この相続人申告登記は単独での申請が可能です。一部の相続人が他の複数人分をまとめて申請することもできます。申告は遺産分割協議が終わっていなくても構いません。
相続登記との違い
相続人申告登記と相続登記との違いは、相続人申告登記が所有者変更をする手続きではないという点です。相続人申告登記をすれば、申し出た方の氏名や住所が登記簿に記載されますが、持分までは載らないのです。
要するに相続人申告登記とは、権利取得を示す正式な登記手続きではなく、過料を回避するための一時的な手続きでしかありません。
相続人申告登記をすれば、相続登記が不要になるわけではないのです。そのため、最終的には余分な手続きとなってしまいます。
よって、登記手続きが期限内に終わらないなどの理由がない限り、相続人申告登記はする必要がありません。
相続人申告登記はこんな場合にお勧め
相続では、遺産分割協議や必要書類の用意等があり、相続登記の申請がすぐに終わるわけでもありません。不動産の権利関係者が多く、それらをまとめあげるのに数年間を要する場合もあります。
つまり、相続登記の期限内に登記が終わらない場合はこの制度を利用するべきです。相続登記の義務化では、相続によって所有権を取得した事実を知ってから3年以内に登記が必要です。
過料を避けるためにも、登記がスムーズにいかないとわかった時点で「とりあえず」相続人申告登記をしておきましょう。
なお、とりあえずの登記としては、法定相続登記もありますが、これは不動産を一旦法定相続分で分けて、相続人全員の共有名義で登記するものです。
しかし、こちらの手続きは被相続人の出生から死亡までの戸籍全部と相続人全員の戸籍など必要資料が多く、手間がかかります。
相続人申告登記の手続き
手続きは不動産所在地にある法務局でします。
必要な書類は、被相続人の戸籍謄本または除籍謄本、申出をする相続人の戸籍謄本、住民票です。
なお、申告の際には登録免許税などの手数料はかかりません。
相続人申告登記の注意点
(1)申請義務を履行したとみなされるのは申出人のみ
申請義務期間内に相続人申告登記を行えば、相続登記の申請義務の履行をしたとされて、ペナルティーを課されることはありません。
しかし、相続登記の申請義務の履行をしたとみなされるのは、申し出をした相続人だけになります。他にも共同所有の相続人がいる場合、ペナルティーを免れるために相続人申告登記の手続きが必要です。
(2)二度手間になる
相続人申告登記では所有権は移りません。よって、相続不動産を売りたくなった時には相続登記をして所有権を移す必要があります。不動産は故人名義のままでは売却できないからです。
繰り返しますが、相続人申告登記をしたからといって、相続登記が不要になるわけではありません。相続人申告登記はあくまでも相続登記までの一時的な手続きだという点に注意してください。
(3)登記簿に住所氏名が載る
相続人申告登記後は、登記事項証明書に申告者の住所・氏名が記載されます。
登記事項証明書を取得すれば、相続人申告登記をした人の住所・氏名がわかります。よって、不動産業者の営業広告などが送られるかも知れません。
他にも、相続人申告登記をした相続人に税金関連の書類が送付されるかもしれません。
まとめ
先月から相続登記の義務化がスタートしています。それに伴い、相続人申告登記制度という制度も始まりました。
この制度では相続登記の申請義務の履行をより簡単にできます。
ただし、相続人申告登記だけでは、所有権は移らないので、後々で相続登記をするのを忘れないようにしましょう。
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相続が発生した際は、故人にいくらの財産があるのか正確に把握しなければなりません。財産を把握することは、相続税の申告の他に、遺産を相続するか決めるため(相続放棄を選択するかどうか)でもあるからです。
財産調査後には、ご自身で財産目録を作成しておくと便利です。目録の作成は義務ではありませんが、作成することで多くのメリットがあります。
財産目録の作成目的
相続における財産目録とは、故人の保有していた財産について、その区分、種類ごとに一覧にし、財産の状況が明らかにされたものです。預貯金、不動産等のプラスの財産や、借金、ローン等のマイナスの財産も含まれます。
財産目録の作成目的としては以下があります。
(1)全ての財産を明らかにする
相続では全ての財産を把握することが重要です。法定相続人になると被相続人の財産を全て引き継いだ上で、その分配について協議します。そのため、総財産が不明のままでは、分配について話し合えません。
総財産が明確になっていないと、相続人同士でも財産隠しの疑念がわきあがり、争いのきっかけになってしまいます。トラブルを起こさず円滑に相続を実行するため、財産目録が便利なのです。
また、全ての財産を明らかにすることは、相続放棄の選択の指標にもなります。
(2)相続手続きをスムーズにする
遺産分割協議については、あらかじめ財産目録があればスムーズに協議ができます。
財産目録があれば、総財産を協議者全員が理解した上で、話し合えます。一部の相続人だけしか知らない状況で話し合うと、分配内容は不公平なものになる可能性が出てきてしまいます。
円滑かつ公平性という観点からも財産目録は作成しておくべきです。
(3)遺言書の作成
遺言書を作成する際にも、財産目録を作成しておくべきです。遺言書には財産の分配方法や内容について書きますが、遺言者・受遺者共に財産を把握できるように財産目録があれば便利です。
特に、多くの銀行と取引をしていたり、不動産を多く所有していたりする場合には、財産目録を作成しておくべきでしょう。相続での手続きもスムーズになります。
ケースによっては目録作成が必須の場合も
財産目録は必ず作成しなければならない場合もあります。
一つ目は遺産分割の調停。この場合、家庭裁判所に財産目録を提出しなければなりません。
二つ目は遺言書で遺言執行者が指定されている場合です。遺言執行者は相続人に交付するために財産目録を作る必要があるのです。
財産目録に記載する内容
(1)プラスの財産
- 預貯金、現金
- 不動産
- 有価証券
- 自動車や骨董品などの動産
- ゴルフ会員権等
プラスの財産が多品種ある場合も考えられます。 数が多くとも記載漏れが出ないようにしましょう。
(2)マイナスの財産
- 借金やローンなどの債務
- 家賃や水道光熱費の滞納費
- 葬式費用
マイナス財産も目録に記入します。
マイナス財産の大きさは、相続放棄や限定承認を判断する指標になるからです。
財産目録を作成するときの注意点
財産目録には決まった形式はありません。しかし、書く際のポイントがあります。
(1)財産が特定できること
例えば、預貯金であれば、口座がある金融機関の名前だけでなく、支店名、口座種別、口座番号、口座名義も明記しておくと特定が簡単です。
不動産は、地番・地目・持分・面積など詳細に記載しましょう。
負債については、その種類や借入先の名前、借入総額、債務残高を書きます。毎月の返済額や完済予定日も記しておくと、なお良いでしょう。
(2)財産の内容に漏れがないようにすること
目録で、一部の記載が漏れていた場合、その財産については遺産分割協議により分割内容を決めることになります。つまり、漏れがあった部分は、その分について再度分割協議を行う必要があります。
そのため、財産の記載漏れをしてしまうと後になってからかなりの手間と時間がかかることになります。
財産目録を作成する際は財産の全容をしっかり把握し、漏れのないようにしましょう。
まとめ
財産目録は義務ではないので、作成しなくても問題はありませんが、あった方が相続手続きはスムーズになり、かつ相続人同士のトラブルも防げるので、作成しておくべきでしょう。
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故人でも、生前に一定の所得を得ている場合、確定申告が必要です。ただし、故人は手続きができないので、法定相続人が代わりに行います。この手続きは「準確定申告」と言います。準確定申告にも期限があるので、期限内に申告と納付を完了しなければなりません。
では、家族全員が相続放棄した場合は、どうすれば良いのか。
また、準確定申告では税金を支払う場合もあれば、還付金が戻ってくる場合もあります。相続放棄しても、準確定申告すれば、還付金は受け取れるのでは?という疑問も出てきます。
本コラムでは、それら相続放棄と準確定申告の事項について解説いたします。
相続放棄
相続放棄は遺産を全く受け取らないことです。つまり、法定相続人としての権利を手放す行為です。相続権がなくなるので、相続財産の取得はできませんが、借金なども受け継がなくて良くなります。
そのため、相続財産に借金が多い場合や、遺産分割協議に参加したくない(他の家族と関わりたくない)場合でも利用されます。
相続放棄は手続きの期限があります。期間は自身が相続人であることを知ってから3ヶ月以内(熟慮期間内)です。
期限が過ぎると、「単純承認」を選択したという扱いになり、相続放棄はできません。単純承認とは、全ての遺産(債務も含めた)を相続するということです。
なお、相応の理由がある場合(例えば遺産に不動産や株式等が多く、遺産総額の評価算出に時間がかかっている、被相続人があちこちに借金をしており、債務整理が終わらない等といった場合)、3ヶ月の期限延長も可能です。
ただし、期限延長は家庭裁判所の判断に委ねられますので、100%成立する保証はありません。よって、相続放棄の判断は熟慮期間内にできるようにしておきましょう。そのためには、遺産の調査や相続税評価を早急に済ませておくべきです。
準確定申告
準確定申告は、故人が生前の一定期間に所得を得ていた場合、その金額に応じて遺族が申告と納付をすることです。
手続き期限は「相続開始を知った翌日から4ヶ月以内」です。申告者は法定相続人であり、故人の所得を計算した上で、税務署に申告します。
準確定申告が必要なのは、以下のようなケースです。
- 被相続人が個人事業主で事業所得を得ていた
- 給与2,000万円超、年金400万円超、副収入20万円超等一定の収入があった
- 2箇所以上の事業所から給与収入を得ていた
- 一定額の不動産所得があった
- 株や不動産の売却収入があった
- 保険金を得ていた(相続税、贈与税の対象となる場合を除く)
準確定申告が必要なのに申告期限を過ぎてしまうと、加算税(無申告加算税)が課されます。また、納付が遅れた日数に応じて延滞税も課されます。
相続放棄すると準確定申告はしなくて良い
前述したように準確定申告の申告義務者は「法定相続人」です。よって、準確定申告は、原則として、法定相続人全員の連署によって申告書を提出します。
しかし、相続放棄すると、その方は法定相続人ではなくなり、最初からいなかったことになります。相続人でない以上、申告義務者ではないので、準確定申告する必要はありません。
では、法定相続人が全員相続放棄をするとどうなるのか。
準確定申告の申告者は、厳密に言えば「相続人又は包括受遺者」です。包括受遺者とは、遺贈対象の財産を特定せずに、プラス財産とマイナス財産を遺贈される方です。
そのため、遺言によって包括受遺者が指定されている場合は、法定相続人が全員相続放棄すると包括受遺者が単独で準確定申告の手続きをします。
包括受遺者が指定されておらず、全員が相続放棄を選択した場合では、相続財産は法人化されて管理(相続財産法人)されますが、その相続財産法人の管理人が準確定申告の手続きをします。
よって、相続放棄をすると準確定申告のことは気にしなくて良いのです。
準確定申告すると単純承認が成立してしまう
相続放棄した場合は、準確定申告しなくて良くなります。しかし、準確定申告では還付金がもらえる場合もあるので、相続放棄したとしても手続きができそうな気もします。
結論を言えば、相続放棄をした時点で準確定申告はできませんし、むしろ相続放棄成立前に準確定申告すれば、「単純承認」が成立し、相続放棄が認められない可能性があります。
つまり、準確定申告して、被相続人の所得税の還付請求をしてしまったために、それが「財産の処分」と捉えられ単純承認とみなされるのです。還付金を受け取るのは相続人なので、相続放棄をした方は受け取れないからです。
よって、相続放棄を考えているのであれば、準確定申告はしてはいけません。
まとめ
相続放棄した場合は、準確定申告をしなくて良いのです。
ただし、相続放棄の手続きの前に準確定申告と還付請求してしまうと、単純承認とみなされて、手続きができなくなる可能性もあるので注意しましょう。
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遺言書を作った後で、家族との関係や考え方が変わることはよくあることです。関係性や考え方に変化があれば、遺言書内容を変更したくなるでしょう。
遺言書も一般的なもので自筆証書遺言・秘密証書遺言・公正証書遺言の3種類があります。公正証書遺言は公証役場で作成されるので手続き自体は異なりますが、遺言書の変更や撤回などは可能です。
遺言書に指定できる内容
遺言書は、作成者が亡くなった後の相続で効力が生じる書類です。代表的な種類に自筆証書遺言・秘密証書遺言・公正証書遺言があります。
公正証書遺言…公証役場で公証人が代理作成するため、形式不備になることがない。原本も公証役場に保管されるため、紛失も無い。公証役場に支払う費用がかかる、また作成の打ち合わせなどに手間がかかる。立ち合いの証人も準備しなければならない。
秘密証書遺言…こちらも公証役場で手続きが必要。証人も用意しなければならない。遺言書の作成記録は役場に残るものの、遺言書原本の管理は遺言者がする。その仕組みのせいで、内容不備はもちろん、紛失のリスクもある。デメリット部分が目立ち、利用率は低い。
遺言書は上記のどんな種類であっても、内容として書けるもの=指定できる事項は同じです。
- ■遺言書に指定できる内容
- 相続分の指定
- 遺産分割方法の指定と分割の禁止
- 相続人の廃除
- 遺贈の指定
- 子供の認知
- 後見人の指定
- 相続人相互の担保責任の指定
- 遺言執行者の指定
相続分の指定ですが、遺留分を侵害するような配分は指定できません。(例えば、「妻に相続財産を全て渡して、子供には渡さない」等の偏った内容の遺言は通りません。)
遺言の内容も絶対ではないのです。
遺言は撤回できる
遺言はいつでも取り消しが可能で、何度でも書きなおす事ができます。
撤回は、遺言の一部についてでも内容の全部でも、どちらでも可能です。
遺言作成については各形式でルールが決められていますが、その撤回にもやり方が決まっており、遺言は遺言で取り消します。
遺言書内容の変更方法
遺言はいつでも取り消しができ、何度でも書きなおせると述べましたが、「遺言の一部だけ」を修正したい場合の具体的な方法としては以下の方法があります。
- 新たに遺言を書き直す
- 作成した遺言自体を変更する
(1)新たに遺言を書き直す
遺言書は日付によって優先順位が決まります。つまり、新しい日付のものが有効です。
古い日付の遺言書に「自宅は妻に預貯金は長男に」と書かれていても、新しい日付の遺言書に「自宅は長男に預貯金は妻に」と書かれていれば、遺産配分は後者の通りに実行されます。
なお、遺言書の種類に優先順位はないので、自筆証書遺言の次に公正証書遺言を新しい日付で作成すると公正証書遺言の内容が優先されます。
(2)作成した遺言自体を変更する
変更する部分が軽微かつ、自筆証書遺言の場合は直接その遺言の文章を変更できると定められています。
自筆証書遺言の変更方法は、変更箇所を示し、変更した旨、変更した内容を書き、署名と押印をします。
やり方に不備があれば無効となり、変更自体が無かったものとなります。また、元の内容がそもそも判別できなかった場合、該当部分は当初から記載無しとみなされるので注意しましょう。
公正証書遺言の場合、基本は一から作り直すこととなりますが、訂正内容が「補充や一部修正の範囲内」と公証人に認められれば、「更正証書」や「補充証書」を作成することになります。
この場合、手数料はもとの公正証書遺言の作成にかかった費用の半分程度になります。
遺言書の取り消し
遺言書を取り消したい場合、原本を破棄します。
自筆証書遺言の場合は、保存してあるものを破棄します。公正証書遺言の場合、原本が公証役場に保管してあるので、撤回の申述をするか、新たに遺言書を作成することになります。
なお、公証役場での撤回は、遺言書作成時と同じように、証人2名の前で、公証人に対して、公正証書を無かったことにしたい旨を述べて、公正証書に署名捺印します。この時、手数料が11,000円かかります。
遺言者死亡後の遺言書の取り消し
遺言書は作成者が亡くなった後の相続で効力が発生します。そのため、相続開始時には原則的に遺言の取り消しや変更はできません。
しかし、遺言作成時に、遺言者が他の相続人・受遺者から脅迫を受けたり、詐欺行為があった場合は取り消しが出来ます。
ただし、子の認知などの身分に関する事項は取り消しが一切できません。
まとめ
遺言書の変更について解説しました。遺言の種類にもよりますが、手続きをすることで変更は可能です。また、手続きが面倒であれば新しい遺言書を作成することでも内容の変更は可能となります。
ただし、遺言書はその内容によっては、相続時に家族間のトラブルを起こす可能性があります。遺言書が争いの火種にならないように、内容は慎重に検討すべきです。
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遺言書では、遺言者本人の意思を相続に反映させることができます。その遺言書の内容に従って各種の手続きをするのが「遺言執行者」です。
遺言内容実現のため、執行者には遺産の管理や必要な行為をする権利義務が定められています。
ここまで書くと、相続手続きのほとんどを遺言執行者ができそうに感じるかもしれません。相続手続きの中で一番時間がかかって厄介なのが「相続税の申告」ですが、これも遺言執行者ができるのでしょうか。
遺言執行者を指名する意味
遺言執行者は遺言内容を実現する人です。故人の意思である遺言に従い、各種の手続きをする権限が与えられます。
そのため、「必要範囲内」で相続人および受遺者の代理人として手続きをします。
遺言執行者を選任しておくことで、不動産登記の放置をなくす、他の相続人による財産処分を抑止するといった効果が出ます。
また、相続人が複数人いる場合、書類収集や署名押印などに手間がかかりますが、遺言執行者がいれば「相続人の代表」として動けるので、労力が大幅に軽減されるのです。
なお、遺言執行者は相続人やそれ以外の第三者、例えば被相続人の友人でも良いです。
遺言執行者の欠格事由に当たる「未成年者」もしくは「破産者」でなければ誰を指名しても構いません。
※未成年者は相続開始の時点で成人していれば大丈夫です。
遺言執行者でも相続税申告はできない
さて、本コラムの本題です。
遺言執行者には遺言内容実現のために、必要な範囲内で様々な権限が与えられると書きました。こう書くと、手続きのほとんどができそうですが、遺言執行者であっても相続税申告は他の相続人や受遺者の代理として行うことができません。
この理由としては、相続税申告が「相続人および受遺者の固有の義務」だからです。️執行者であっても、代理として手続きをする権限はないわけです。
相続税の申告期限は「相続開始を知った日(死亡日)の翌日から10ヶ月」となっています。この期限を過ぎれば、1日ごとに延滞税が加算されていくことになります。また、無申告として加算税が課せられる恐れもあります。
よって、遺産を受け取った方がご自身で期限内に手続きをするか、税理士に代行してもらわないといけません。
遺言執行者ができること
遺言執行者が主にできる手続きは、以下の通りです。
- 相続人へ執行者に就任した旨と遺言内容の通知
- 被相続人の戸籍調査による相続人の確定
- 相続財産の調査
- 相続財産目録の作成
- 遺言内容の実現(不動産の登記申請手続き・預貯金の解約・払戻手続き等々)
遺言執行者は遺言内容の実行に関する手続きをします。
そのため、前述した相続税の申告などはできないのです。
なお、以下の手続きは遺言執行者しかできません。
遺言書では非嫡出子の認知もできますが、その手続きをするのは遺言執行者だけです。認知された子供は実子と同様の扱いとなり、相続権を持つことになります。遺言執行者は就任後10日以内に認知届けの提出をします。
相続人の廃除とは、推定相続人の中に遺言者へ虐待・侮辱・著しい非行などをした人がいる場合に、相続人としての権利を剥奪することです。廃除となれば、一切の相続権を失います。
不動産など特定の財産を相続人以外に相続させる特定遺贈の実行は、遺言執行者のみができます。これは民法改正によって決まったルールです。例えば、特定遺贈財産が不動産であれば、執行者が法務局で相続登記をすることになります。
遺言執行者は専門家に任せた方が良いのか
執行者は誰を選んでも構いません。中には税理士などの専門家を執行者にするケースもあります。「執行者をわざわざ専門家に頼むなんて・・・」という方もいますが、専門家を選ぶのにはそれなりのメリットがあるのです。
まず、相続の専門家は経験があるため、執行者の業務をスムーズに進められます。相続は人生で何度もあることではないので、専門家と一般の方ではどうしても経験に差が出てしまいます。
不慣れな手続きには時間がかかるので、他の事項にも影響します。その点、専門家であればスピーディーかつ正確に作業を終えるため、不安もありません。
なお、相続税申告まで依頼したい場合は、税理士に依頼することでスムーズに手続きを進めることができます。(その場合、遺言執行者の業務とは別に税理士として相続税申告書の作成を依頼することになります。)
また、専門家が業務を請負うことで他の相続人に余計な気を使わせることもありません。
相続では遺言執行者に指定されなかった相続人が不満に思い、執行者に選ばれた相続人と確執が生まれることもあるからです。
専門家に頼むことでもちろん報酬はかかってしまいますが、手続きの煩わしさから解放される点や、他の相続人とのトラブルを避ける意味でも、メリットは多いのです。
報酬やサービスは事務所によって異なるので、幾つか相談して良い所を見つけると良いでしょう。
まとめ
遺言執行者であっても相続税申告は他の相続人や受遺者の代理として行うことができません。執行者であってもやれる業務は決まっているので注意が必要です。
遺言の内容を確実に実行してもらいたい場合や、相続で家族間の争いを避けたい場合は、遺言作成時には遺言執行者の選任を検討し、可能なら専門家を選任すると良いでしょう。
費用がかかりますが、専門家に頼むことで、相続手続きが円滑に進みます。
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