相続税の物納は使えるのか?利用件数は100件以下にまで減っている
厚木市で 相続手続 支援をしている、税理士・相続手続相談士の小川正人です。
相続 の際に必要な戸籍集めや口座解約、各種名義変更をお手伝いさせていただいております。
相続の際に、相続財産評価額に応じて課されるものが「相続税」です。相続税は取得額ごとに各相続人が負担します。
相続税には「基礎控除」という一定の控除額が設定されており、この範囲内の財産であれば、相続税は生じません。しかし、不動産のような高額な遺産がある場合、基礎控除を超える可能性は高くなります。
実際にはおよそ12件のうち1件程度の割合で相続税は発生するようです。
相続税が生じる場合、申告と納付をします。納付は「現金で一括納付」が原則です。
相続税が高くて一括納付が難しい場合、「延納制度」を利用して利子を払いつつ相続税を分割で支払っていくことになります。
しかし、それであっても相続税の支払いができない場合、株式や不動産といったお金以外の財産で納める「物納」が認められます。
ただし、物納で認められるのは非常に限定的なものです。また、手続きも非常に複雑であるため、利用件数はかなり少ないのです。
相続税の物納ができる流れとは
物納を利用するには、流れがあります。
②一括での納付は難しいが、給与や家賃収入があり分割納付なら可能→延納制度の実施
③延納が認められず、物納での一括納付が可能→物納制度の実施
つまり、現金での納付が可能と判断される場合、物納は認められません。物納は相続税を支払うための最終手段なのです。
相続税の納付はあくまで現金による一括納付が原則で、それが難しい場合、「延納制度」を申請します。延納が認められず、物納による一括納付が可能な場合にのみ制度が利用できるのです。
よって、物納ができる要件は以下の通りになります。
- 相続税の納税額が10万円超
- 相続税の支払いができないと判断された
- 定期収入もなく、分割納付もできないため、延納制度が利用できない
- 物納に充てる相続財産があり、相続税を支払える
物納できる財産の順位
物納できる財産は限られています。そして、優先される順位も決まっています。
同一順位の中であれば、物納する財産を納税者の判断で決定できますが、基本は上位のものが納付されることになります。
また、財産は相続で取得したもの、所在が日本国内にあること、所轄税務署の事前許可を得ていることも条件となります。
国が処分するのに適さないとした財産は、申請が却下されてしまいます。現在は基準も厳しくなっており、売れる見込みのないもの、利用価値のないものは国では引き受けないのです。
- 第1順位
①不動産、船舶、国債証券、地方債証券、上場株式等(社債、株式等の有価証券のうち、金融商品取引所に上場されているもの)
②不動産及び上場株式のうち物納劣後財産に該当するもの
- 第2順位
①非上場株式等
②非上場株式のうち物納劣後財産に該当するもの
- 第3順位
動産
物納劣後財産とは、物納に充てられるけれど順位が後れる財産です。
同じ順位の中でも、充てられる順番としては後になるということです。
物納の利用状況は減っている
国税庁データによれば、物納申請状況は20年程前には4,000件を超える利用があったものの、令和2年には65件であり、100件以下にまで利用数は落ちています。
これは審査が厳しくなった点が挙げられます。
また、物納の申請は亡くなられてから10ヶ月以内にしなければならず、申請時点での書類も多いのです。土地で言えば、登記事項証明書、印鑑証明書、地積測量図や境界確認書などの書類が必要です。(地積測量図や境界確認書などは、実際に測量や境界確認をする必要がありますから、場合によっては作成に時間がかかります。)
加えて、物納の許可があった場合には相続税の納期限または納付すべき日から収納の日までの期間について利子税がかかります。また、物納が却下された場合も却下された日までの期間について利子税がかかります。
まとめると、手間がかかる上に利子税も取られるので、デメリットが大きいのです。
自分で売却する場合との比較
物納を利用しない場合、ご自身で不動産を売却して、そのお金で相続税を支払うという選択もあります。
物納と不動産売却にはそれぞれメリットとデメリットがあるので、相続財産に合った方を選ぶべきです。
- 物納のメリット
- 譲渡所得税、不動産会社への仲介手数料がかからない
- 物納のデメリット
- 条件がかなり厳しい
- 事前準備にかなりの手間を要する
- 売買価額ではなく相続税評価額が収納価額となってしまう(儲けが少ない)
- 利子税がかかる
- 不動産売却のメリット
- 物納ほど手間がかからない
- 不動産の売却価額は相続税評価額よりも高くなるケースが多く、お金が手元に残りやすい
- 利子税がかからない
- 不動産売却のデメリット
- 譲渡所得税、不動産会社への仲介手数料がかかる
- 買い手が見つかるまで長い時間がかかる場合もある
まとめ
コラム内で説明した通り、物納できる財産の基準は現在では明確化されており、審査も厳しくなったことから、物納の申請件数はかなり減りました。
申請手続きも大変なので、安易な利用はやめるべきです。手続きが長期化すれば、利子税も加算されていくので、税負担が大きくなってしまいます。
相続手続きにおける難しい判断は必ず税理士へ相談してください。
ご自身やご家族の状況を正しく把握して、適切なアドバイスが送れるからです。相続で多大な損害を被らないためにも是非専門家を頼ってください。
相続の手続きでお困りのことがございましたら、相続手続の専門家・相続手続相談士のいる厚木相続相談センターまでお気軽にご連絡ください。
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1960年東京生まれ 早稲田大学商学部卒業
1989年税理士登録
相続手続きについての執筆活動もしているエキスパート。
複数の事務所勤務を経験後、1995年厚木市に税理士事務所開業。2015年法人設立、代表就任。
税務や会計にとどまらず、3C(カウンセリング、コーチング、コンサルティング)のスキルを使って、お客様が幸せに成功するお手伝いをしています。
■著書
「儲かる社長がやっている30のこと」(幻冬舎)
■執筆協力
「相続のお金と手続きこれだけ知っていれば安心です」(あさ出版)
「事業の引き継ぎ方と資産の残し方ポイント46」(あさ出版)
その他多数。