遺言執行者は相続税の申告もできるのか?【執行者の業務の範囲】
厚木市で 相続手続 支援をしている、税理士・相続手続相談士の小川正人です。
相続 の際に必要な戸籍集めや口座解約、各種名義変更をお手伝いさせていただいております。
遺言書では、遺言者本人の意思を相続に反映させることができます。その遺言書の内容に従って各種の手続きをするのが「遺言執行者」です。
遺言内容実現のため、執行者には遺産の管理や必要な行為をする権利義務が定められています。
ここまで書くと、相続手続きのほとんどを遺言執行者ができそうに感じるかもしれません。相続手続きの中で一番時間がかかって厄介なのが「相続税の申告」ですが、これも遺言執行者ができるのでしょうか。
遺言執行者を指名する意味
遺言執行者は遺言内容を実現する人です。故人の意思である遺言に従い、各種の手続きをする権限が与えられます。
そのため、「必要範囲内」で相続人および受遺者の代理人として手続きをします。
遺言執行者を選任しておくことで、不動産登記の放置をなくす、他の相続人による財産処分を抑止するといった効果が出ます。
また、相続人が複数人いる場合、書類収集や署名押印などに手間がかかりますが、遺言執行者がいれば「相続人の代表」として動けるので、労力が大幅に軽減されるのです。
なお、遺言執行者は相続人やそれ以外の第三者、例えば被相続人の友人でも良いです。
遺言執行者の欠格事由に当たる「未成年者」もしくは「破産者」でなければ誰を指名しても構いません。
※未成年者は相続開始の時点で成人していれば大丈夫です。
遺言執行者でも相続税申告はできない
さて、本コラムの本題です。
遺言執行者には遺言内容実現のために、必要な範囲内で様々な権限が与えられると書きました。こう書くと、手続きのほとんどができそうですが、遺言執行者であっても相続税申告は他の相続人や受遺者の代理として行うことができません。
この理由としては、相続税申告が「相続人および受遺者の固有の義務」だからです。️執行者であっても、代理として手続きをする権限はないわけです。
相続税の申告期限は「相続開始を知った日(死亡日)の翌日から10ヶ月」となっています。この期限を過ぎれば、1日ごとに延滞税が加算されていくことになります。また、無申告として加算税が課せられる恐れもあります。
よって、遺産を受け取った方がご自身で期限内に手続きをするか、税理士に代行してもらわないといけません。
遺言執行者ができること
遺言執行者が主にできる手続きは、以下の通りです。
- 相続人へ執行者に就任した旨と遺言内容の通知
- 被相続人の戸籍調査による相続人の確定
- 相続財産の調査
- 相続財産目録の作成
- 遺言内容の実現(不動産の登記申請手続き・預貯金の解約・払戻手続き等々)
遺言執行者は遺言内容の実行に関する手続きをします。
そのため、前述した相続税の申告などはできないのです。
なお、以下の手続きは遺言執行者しかできません。
遺言書では非嫡出子の認知もできますが、その手続きをするのは遺言執行者だけです。認知された子供は実子と同様の扱いとなり、相続権を持つことになります。遺言執行者は就任後10日以内に認知届けの提出をします。
相続人の廃除とは、推定相続人の中に遺言者へ虐待・侮辱・著しい非行などをした人がいる場合に、相続人としての権利を剥奪することです。廃除となれば、一切の相続権を失います。
不動産など特定の財産を相続人以外に相続させる特定遺贈の実行は、遺言執行者のみができます。これは民法改正によって決まったルールです。例えば、特定遺贈財産が不動産であれば、執行者が法務局で相続登記をすることになります。
遺言執行者は専門家に任せた方が良いのか
執行者は誰を選んでも構いません。中には税理士などの専門家を執行者にするケースもあります。「執行者をわざわざ専門家に頼むなんて・・・」という方もいますが、専門家を選ぶのにはそれなりのメリットがあるのです。
まず、相続の専門家は経験があるため、執行者の業務をスムーズに進められます。相続は人生で何度もあることではないので、専門家と一般の方ではどうしても経験に差が出てしまいます。
不慣れな手続きには時間がかかるので、他の事項にも影響します。その点、専門家であればスピーディーかつ正確に作業を終えるため、不安もありません。
なお、相続税申告まで依頼したい場合は、税理士に依頼することでスムーズに手続きを進めることができます。(その場合、遺言執行者の業務とは別に税理士として相続税申告書の作成を依頼することになります。)
また、専門家が業務を請負うことで他の相続人に余計な気を使わせることもありません。
相続では遺言執行者に指定されなかった相続人が不満に思い、執行者に選ばれた相続人と確執が生まれることもあるからです。
専門家に頼むことでもちろん報酬はかかってしまいますが、手続きの煩わしさから解放される点や、他の相続人とのトラブルを避ける意味でも、メリットは多いのです。
報酬やサービスは事務所によって異なるので、幾つか相談して良い所を見つけると良いでしょう。
まとめ
遺言執行者であっても相続税申告は他の相続人や受遺者の代理として行うことができません。執行者であってもやれる業務は決まっているので注意が必要です。
遺言の内容を確実に実行してもらいたい場合や、相続で家族間の争いを避けたい場合は、遺言作成時には遺言執行者の選任を検討し、可能なら専門家を選任すると良いでしょう。
費用がかかりますが、専門家に頼むことで、相続手続きが円滑に進みます。
相続の手続きでお困りのことがございましたら、相続手続の専門家・相続手続相談士のいる厚木相続相談センターまでお気軽にご連絡ください。
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1960年東京生まれ 早稲田大学商学部卒業
1989年税理士登録
相続手続きについての執筆活動もしているエキスパート。
複数の事務所勤務を経験後、1995年厚木市に税理士事務所開業。2015年法人設立、代表就任。
税務や会計にとどまらず、3C(カウンセリング、コーチング、コンサルティング)のスキルを使って、お客様が幸せに成功するお手伝いをしています。
■著書
「儲かる社長がやっている30のこと」(幻冬舎)
■執筆協力
「相続のお金と手続きこれだけ知っていれば安心です」(あさ出版)
「事業の引き継ぎ方と資産の残し方ポイント46」(あさ出版)
その他多数。