相続税申告だけじゃない!「亡くなった人の確定申告」とは
こんにちは。
厚木市で相続手続支援をしている、税理士・相続手続相談士の小川正人です。
相続の際に必要な戸籍集めや口座解約、各種名義変更をお手伝いさせていただいております。
フリーランスや自営業などの個人事業主で、一定の事業収入がある人は毎年、「確定申告」をしなければなりません。
確定申告とは、年間の売上から経費を差し引いた儲け(所得)にかかる税金を計算し、税務署に報告する手続きです。
この確定申告は、生きている方だけでなく、亡くなった方にも求められる場合があります。
亡くなった方に所得税がかかっているかどうかはケースバイケースですが、もし申告が必要であるならば本人に代わって、相続人が行います。
この手続きは「準確定申告」といいますが、通常の確定申告と同様に期限が設けられています。
相続における税務署への手続きといえば、おおよそ「相続税申告」が先に思い浮かぶので、そちらに気を取られがちですが、実はこの準確定申告の方が期限が早いので、注意が必要です。
申告者は誰か
納税者である本人は既に亡くなっているので、準確定申告を行うのは相続人と包括受遺者です。
包括受遺者とは、遺言によって一定割合の遺産を受け取る方です。
準確定申告のための申告書は、通常の様式とほぼ同じで、税額計算も変わりません。
しかし、準確定申告は「原則として相続人全員で行う」という点があります。
つまり、相続人や包括受遺者が二人以上いる場合は、「相続人等がそれぞれ個別で準確定申告の手続きをする」か、「準確定申告書の付表に相続人全員が署名と押印をして代表者が申告書を提出する」必要があるということです。
どちらの方法を取るにしろ、申告者および他相続人のマイナンバー関係書類の添付が必須です。
そのため、通常の確定申告よりは手間がかかることは覚えておきましょう。
準確定申告が必要なケースとは
(1)必要なケース
準確定申告が必要かどうかの判断は、基本的に確定申告が必要かどうかの条件と同じです。
いくつかのパターンを見てみましょう。
- 個人事業主として一定の事業所得を得ていた
- 給与収入が2,000万円を超える
- 年金額が400万円を超えていた
- 副収入(必要経費以外)が20万円を超えていた
- 2つ以上の企業から給与収入を得ていた
- 不動産所得を得ていた
- 株や不動産の売却収入を得ていた
- 保険金をもらっていた(相続税、贈与税対象は除外)
よくあるケースは故人が生前に自営業者やフリーランスなどで、事業収入を得ていた場合です。
この場合は準確定申告が必要ですが、所得が48万円未満の場合は不要となります。
つまり、売り上げが少なかったり、経費が多すぎる場合には、申告の対象ではないのです。
不動産所得や株取引などの売却収入も、48万円に届かなければ申告しなくても構いません。
会社に所属して給与をもらっていた場合、通常であれば申告は不要ですが、給与収入額が大きかったり、副業で収入を得ていると、申告の対象になります。
特に副業に関しては、近年はインターネットサービスの進化によって、行う方も増えているので要注意です。
(2)しておいた方が良い方ケース
申告が不要でも、「しておいた方が良い」ケースもあります。
何故なら、準確定申告をすることによって、税金の還付を受けられる可能性があるからです。
- 年末調整がまだで、源泉徴収税額を納め過ぎている
- 高額の医療費を支払っている
- 配偶者控除、扶養控除、雑損控除、特定寄付などの各種控除を受ける条件に該当している
会社に所属している方が途中で亡くなった場合、年末調整がまだなので源泉徴収によって税金を納め過ぎていることがよくあります。
その場合は、準確定申告をすれば税金が還付されるので、是非手続きをしましょう。
また、亡くなった年に医療費が高額になっていた場合も、申告によって医療費控除を受けることができます。
高齢者は特に、病院の検査費用や薬代がかかるものなので、領収書が残っているのであれば、医療費を計算してみましょう。
配偶者や扶養家族がいる場合も、各種の控除を受けられるので、申請を行うべきです。
期限は4カ月以内
確定申告では、前年の1月1日から12月31日までの所得に関する税金を、毎年2月16日から3月15日の間に申告します。
しかし、準確定申告の期限は、相続の開始があったことを知った日から4ヶ月以内です。
相続税の申告は10ヶ月以内なので、準確定申告の期限の方が短いのです。
期限を過ぎてしまうと、相続税と同じように以下のペナルティーが課されることになります。
延滞税…期限までに税金を納付していない場合に課税される税金。期限の翌日から納付の日数分、課せられる。
通夜や葬儀で忙しい中、申告の準備をしなければならないので、ついつい無申告となってしまうケースもあります。
申告期限を破れば、本来よりも高い税金を払う羽目になってしまうので、申告期限内に準確定申告書の提出を行えるように準備しておきましょう。
なお、準確定申告は、2年分をまとめて提出する場合もあります。
例えば、毎年確定申告をしている方が年の最初に亡くなると、多くの場合、前年分の確定申告が済んでいない状態です。
さらに、当年に生じた所得についても申告していないので、2年分の準確定申告を相続人が行わなければなりません。
もし、亡くなる前に前年分の確定申告を完了していたのであれば、提出するのは当年の1年分だけです。
手続きに必要な書類
準確定申告の必要書類は、通常の確定申告とほぼほぼ同じで、亡くなった方の源泉徴収票や保険料等の支払証明書などを用意します。
年金受給者の場合は、死亡届提出の時点で年金の源泉徴収票が送付されます。
事業所得がある場合、申告内容に合わせて青色申告決算書や収支内訳書などを提出しなければなりません。
準確定申告で必要な書類は次の6種類です。
- 確定申告書
- 亡くなった方の源泉徴収票
- 亡くなった方の控除証明書
- 所得税及び復興特別所得税の確定申告書付表
- 亡くなった人の医療費の領収書
- 委任状※
(※準確定申告による還付金を相続人の代表者が受けるときに、提出が必要になる場合があります。)
確定申告書付表は相続人が複数いて、代表者が申告を行う場合に必要です。
付表には、各相続人が署名と押印をしなければなりません。
また、相続人全員のマイナンバー記入や、本人確認書類を添付も必須なので、相続人同士がスムーズに連署、必要書類を揃えるように、進行しなければなりません。
なお、準確定申告は、今まで電子申告ができませんでしたが、令和2年度以降に「e-Tax」システムが利用できるようになりました。
これにより、パソコンやスマホがあれば、わざわざ税務署に出向く必要はありません。
ただし、ソフトのダウンロードや電子証明書の取得を要するので、慣れていないと難しく感じる場合もあります。
手続きをスムーズに行うためのポイント
述べたとおり、準確定申告は期限も早いので、段取り良く進めていかなくてはなりません。
ここでは、準確定申告をスムーズに行うためのポイントをご紹介いたします。
(1)他の相続人への理解
相続人が複数人いる場合は、準確定申告に手間がかかることや期限が短いことを事前に理解してもらっておきましょう。
代表者が申告を行う場合、確定申告付表には、相続人全員の連署・押印が必要ですし、各相続人の本人確認書類も揃えなくてはならないからです。
また、医療費除控や国民年金控除の証明書類など各種の申請に必要な資料を相続人がバラバラに保管している可能性もあります。
そのため、早い段階で代表者の元に書類が集まるように、相続人同士で連絡を取り合っておきましょう。
(2)必要書類の発行元と所要時間を把握する
確定申告と準確定申告ではかかる手間も違います。
必要書類などが手元に届くまでの所要時間はしっかりと把握しておくべきです。
「申告の締切り直前に必要書類が手元にない」という事態を避けるためにも、大切なことです。
(3)税理士に依頼する
仕事をしている場合などは、申告が必要なのかを調べたり、必要書類をそろえたりする時間が取りづらいでしょう。
ましてや、準確定申告の期限は、相続税の申告期限より半年も短いため、焦りや不安も募ります。
よって、忙しかったりや不安を抱えている場合は、相続専門の税理士に手続きを代行してもらう方が良いでしょう。
報酬はかかってしまいますが、プロに任せることによって煩わしい手続きから解放されるメリットがあります。
また税理士であれば、相続税申告の代行もできますし、節税に関するアドバイスももらえます。
税金を抑えることができれば、報酬以上の効果が期待できます。
なお、相続人が準確定申告の手続きを税理士に委任する場合は、税務代理権限証書が必要です。
税理士は同書類がないと、正式な代理人としては扱われないからです。
まとめ
亡くなった方の所得税申告を相続人が代わりに行うのが、「準確定申告」です。
気をつけるべき点は以下の通りです。
- 申告が必要か不要かを調べなくてはならない
- 相続税よりも申告期限が早い
- 期限を破った場合はペナルティーあり
- 相続人が複数いる場合は、連携して手続きを進める必要がある
準確定申告の厄介なところは期限が早く、スピードを求められることです。
そのため、事前準備や相続人同士で理解を深めておくことが大切になってきます。
もし、自身での手続きが難しい場合には早めに税理士に相談しましょう。
相続の手続きでお困りのことがございましたら、相続手続の専門家・相続手続相談士のいる厚木相続相談センターまでお気軽にご連絡ください。
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1960年東京生まれ 早稲田大学商学部卒業
1989年税理士登録
相続手続きについての執筆活動もしているエキスパート。
複数の事務所勤務を経験後、1995年厚木市に税理士事務所開業。2015年法人設立、代表就任。
税務や会計にとどまらず、3C(カウンセリング、コーチング、コンサルティング)のスキルを使って、お客様が幸せに成功するお手伝いをしています。
■著書
「儲かる社長がやっている30のこと」(幻冬舎)
■執筆協力
「相続のお金と手続きこれだけ知っていれば安心です」(あさ出版)
「事業の引き継ぎ方と資産の残し方ポイント46」(あさ出版)
その他多数。