秘密証書遺言はどうして作成件数が少ないのか【遺言作成の知識】
厚木市で相続手続支援をしている、税理士・相続手続相談士の小川正人です。
相続の際に必要な戸籍集めや口座解約、各種名義変更をお手伝いさせていただいております。
秘密証書遺言は、名前の通り「誰にも公開されずに秘密にできる」ものです。公証人によって、遺言の存在を証明してもらうことができます。
ただし、形式不備となる可能性が高く、加えて原本を自分で保管するので、紛失のリスクもあります。このような部分もあり、自筆証書遺言・公正証書遺言と比べてあまり作成されません。
秘密証書遺言の概要
秘密証書遺言とは、遺言内容を秘密のまま、存在だけを公証役場で証明してもらえるものです。
秘密証書遺言の特徴は以下の通りです。
- 代筆も可能(署名は自筆で行う)
- パソコンでの作成も可(こちらも署名は自筆で書くこと)
- 公証役場での手続きが必要
- 役場の手続きでは証人2人が必要となる
- 遺言書原本の保管は遺言者がする
秘密証書遺言は書類を作成した後、公証役場で公証人及び証人の立ち合いを経て完成します。
遺言書作成の事実は役場に記録されますが、遺言書管理は遺言者本人が行います。
手続きには11,000円の手数料がかかり、証人も役場で紹介してもらうなら一人あたり5,000円から1万円程度かかります。
なお、証人は遺言者自身で用意できますが、以下の方は証人になれません。
- 未成年者(現行法では18歳)
- 推定相続人、受遺者、それらの配偶者や直系血族
- 公証人の配偶者、4親等内の親族、書記および使用人
遺言者にとって、近しい親族も証人になれません。
証人は相続について、遺言者と利害関係の無い第三者でなくてはならないからです。
そのため、遺言者の親類は大半が証人になれないと覚えておきましょう。
周囲に証人になってくれる方(資格者)がいない場合は、先述した公証役場で紹介してもらうか、税理士などの相続の専門家に依頼しましょう。
秘密証書遺言の利点
秘密証書遺言のメリットは、遺言内容を遺言者自身はもちろん証人にも知られないという点です。
公証人ですら遺言の中身を見ません。
また、財産目録以外は自筆での作成が求められる自筆証書遺言とは異なり、秘密証書遺言は全文パソコンで作成しても良く、代筆も大丈夫です。(ただし、署名は自筆で書くこと。)
遺言者が封をして公証人が封紙に署名する方式なので、第三者の偽造や変造を防ぐこともできます。
秘密証書遺言がお勧めされない理由
(1)不備が起こりやすい
秘密証書遺言は形式不備で無効となるリスクがあります。
これは、遺言者以外だれも中身を見られないからです。形式不備にならないためには、遺言者自身が作成時に注意する以外にありません。
内容等を専門家に確認してもらってから、公証役場で手続きをしても良いですが、それであれば、秘密証書遺言を選ぶメリットはないでしょう。
(2)原本が発見されない場合も
公証役場は秘密証書遺言が作成された事実のみを証明するだけなので、原本は遺言者が相続まで保管します。
よって、紛失や、相続時に発見してもらえない可能性も高くなります。
公正証書遺言では原本が公証役場に保管されるので、紛失等の心配はありません。自筆証書遺言でも法務局の保管制度を利用すれば、同様にリスクがなくなります。
(3)相続では検認手続きが必要
秘密証書遺言は、ルールに従って遺言書が書かれているのか、家庭裁判所で確認される必要があります。
これは「検認」と言われるものです。
なお、検認が終わるまでは遺言書を開封できないので注意しましょう。もし、誤って開封してしまった場合は罰則として過料が課せられる可能性もあります。
遺言の原本が無ければ効力は生じない
秘密証書遺言は、日本公証人連合会の「遺言検索システム」で存在を確認できます。
検索利用者が相続人本人の場合は以下の書類が必要です。
- 遺言者の死亡書類(除籍謄本など)
- 利用者と遺言者の繋がりが確認できる戸籍謄本など
- 利用者の顔写真付き本人確認資料+認印
(顔写真付きの本人確認資料が無い場合は、印鑑証明書+実印が必須)
代理人がシステムを利用する場合、以下の書類が必要です。
- 遺言者の死亡書類(除籍謄本など)
- 委任者(利用者)と遺言者の繋がりが確認できる戸籍謄本など
- 委任状(実印で押印)
- 委任者(利用者)の発行3ヶ月以内の印鑑証明書
- 代理人の顔写真付き本人確認資料+認印
(顔写真付きの本人確認資料が無いなら、代理人の印鑑証明書+実印でOKです)
検索システムによって存在は確認できますが、原本が無ければ意味はないのです。誰も保管場所を知らずに遺言書を見つけてもらえなければ、結果として紛失と同じです。
また、苦労して発見しても前述の通り、形式不備等で遺言書が無効になる恐れもあります。
まとめ
ご説明した通り、秘密証書遺言は形式不備や保管のリスクが多く、あまり利用されないのです。
遺言形式でどれを選ぶかは遺言者の自由ですが、メリット・デメリットをよく把握した上で、最適なものを選ぶようにしましょう。
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1960年東京生まれ 早稲田大学商学部卒業
1989年税理士登録
相続手続きについての執筆活動もしているエキスパート。
複数の事務所勤務を経験後、1995年厚木市に税理士事務所開業。2015年法人設立、代表就任。
税務や会計にとどまらず、3C(カウンセリング、コーチング、コンサルティング)のスキルを使って、お客様が幸せに成功するお手伝いをしています。
■著書
「儲かる社長がやっている30のこと」(幻冬舎)
■執筆協力
「相続のお金と手続きこれだけ知っていれば安心です」(あさ出版)
「事業の引き継ぎ方と資産の残し方ポイント46」(あさ出版)
その他多数。